酒米物語
酒米(醸造用玄米)は清酒の品質を左右する最も根本的な原料である。食用米と異なり、大粒で心白(中心部の白い不透明なデンプン質)が大きく、タンパク質・脂質が少ないことが良い酒米の条件とされる。
主要酒米比較表
| 品種名 | 品種登録年 | 親品種 | 主産地 | 千粒重 | 特徴・酒質傾向 |
|---|---|---|---|---|---|
| 山田錦 | 1936年(昭和11年) | 山田穂 × 短稈渡船2号 | 兵庫県(特A地区:三木市・加東市・多可町など)・福岡県 | 約27〜30g(大粒) | 心白発現率が高く、溶けやすい。上品な香りと旨みを引き出す「酒米の王様」。灘の大吟醸・吟醸に欠かせない |
| 五百万石 | 1957年(昭和32年) | 菊水 × 新200号 | 新潟県・石川県・富山県 | 約24〜26g(中大粒) | 淡麗辛口向き。新潟清酒「越後流」の基盤品種。栽培しやすく生産量が多い(国内2位)。スッキリした酒質 |
| 雄町 | 在来品種(1859年に岸本甚造が発見) | 在来種(備前の在来種から選抜) | 岡山県(赤磐市が中心) | 約28〜32g(大粒) | 現存する最古の酒米品種。現代の多くの酒米の遠祖。旨みと深みが強く、「酒米のルーツ」と呼ばれる。生産量少なく希少 |
| 美山錦 | 1978年(昭和53年) | たかね錦の放射線突然変異体 | 長野県・山形県・岩手県 | 約22〜25g(中粒) | 寒冷地向けで耐冷性が強い。きれいでスッキリした酒質。東北・信越の吟醸酒に多用 |
| 愛山 | 1948年(昭和23年)開発・一時絶滅危機後復活 | 山田錦 × 雄町(推定) | 兵庫県・岡山県 | 約28〜32g(大粒) | 非常に大粒で心白が大きい。独特の甘みと複雑な旨み。生産量が少なくプレミアム素材として人気が急上昇。「幻の酒米」とも |
| 亀の尾 | 1893年(明治26年)に阿部亀治が山形県で選出 | 在来種から選抜 | 山形県・宮城県・秋田県 | 約20〜22g(中粒) | 明治〜大正期に一世を風靡したが戦後ほぼ絶滅。1980年代に復活。現代の多くの食用米(コシヒカリ・ひとめぼれ等)の祖先品種。独特の旨みを持つ |
山田錦の系譜図
山田錦は1921年(大正10年)から兵庫県立農事試験場(現:農業技術センター)で交配育種が始まり、1936年(昭和11年)に「山田錦」として正式登録された。
【山田錦の系譜】
山田穂(やまだほ) 短稈渡船 2号(たんかんわたりぶね)
[兵庫県在来種] [滋賀・三重在来種の選抜系統]
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(1921年 交配)
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選抜・固定化(約15年)
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│ 山田錦 誕生 │
│ 1936年登録 │
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山田錦 × 雄町(推定) 各地へ普及
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愛山(1948) 全国の大吟醸蔵へ
雄町 ── 「酒米の祖」
1859年(安政6年)、備前国赤坂郡雄町村(現・岡山市東区)の農家、岸本甚造が伯耆大山への参拝途中で見つけた穂を持ち帰り栽培したのが雄町の起源とされる。山田錦・五百万石・八反錦など多くの現代酒米が雄町を祖先に持つことが遺伝子解析で確認されている。
亀の尾 ── 明治の星、現代に復活
1893年(明治26年)、山形県庄内の農家・阿部亀治が冷害に強い稲を選抜して「亀の尾」を育成。大正時代には東北〜北海道で主要な酒米・食用米として普及し、コシヒカリの先祖とも言われる。しかし戦後の品種改良の波で1950年代にほぼ姿を消した。1980年代に山形の蔵元「一粒万倍」の試みで復活し、現在は純米酒・吟醸酒に独自の風味をもたらす復活品種として珍重されている。